カヤック日記


2021年7月の出来事

写真:先月発見しご紹介したハマナタマメ。こんな場所で良かったのだろうか。場所を選べない植物の生き方。それでもどんどん大きくなっています。




















写真:先月発見しご紹介したハマナタマメ。こんな場所で良かったのだろうか。場所を選べない植物の生き方。それでもどんどん大きくなっています。

今月の主な出来事をフィールドノートから抜き出しながら書いてみます。(その日のTwitterや関連リンクも貼っておきます)

3日 大雨につき調査休み(熱海の伊豆山土砂災害の日)

海岸は大雨で危険な場所は河口近くだけなのですが、白浜の海岸に行くまでの区間で2019年の台風以来大量の木が倒れて土砂崩れの危険が高まっている場所があり、それを恐れていて調査を休みました。
そして家にいて見たニュースが熱海の痛ましい事故でした。
被害者の方々のご冥福をお祈りします。
熱海に限らず問題のある土地は日本中、世界中に沢山あるはずです。
元々は良い場所だったところでも台風など大きな災害の後に状況が変わったという場所も多いはずです。
どこに住んでもなんらかの危険はあるといえます。
自分が住むところにはどんな危険が潜んでいるのかを考えながら暮らして自分の身を守るという気持ちが必要になっている、もしくは忘れられてきていると思いました。

シーカヤッキングでは常にそういう自分の生命に関して自分が責任を持つ覚悟を必要とします。
登山であれば初心者向けのルートなど、ある程度のレベル分けがされていますから、自分に合った条件の場所で楽しむための選択がしやすくなっています。
しかしシーカヤッキングは同じルートでも風、潮、波、水温、気温といった不安定な条件に囲まれて行いますから、ある日には初心者向けでも別の日にはベテランでも判断の難しい条件になったりと、それはもちろん山でも多少はそうなのですが、海はあまりにその変化の差が大きく変化の速度も早いので、常に状況を把握して対処しているという行為です。
そう考えるとまず「海に出るのか出ないのか」が最も大切な判断だったりします。
そういう状況を調べて、実際に自分で観て、判断し、行動するという癖がついてくるとシーカヤッキングでの「ヒヤリハット」のような事は減っていくと思います。
そして、それらがシーカヤッキング時の感覚や癖、習慣となり、今度は生活の全般にそれを適用するようになっていくように思います。
それがアウトドアやシーカヤッキングという類の「遊び」をする本当の目的だったと分かってしまうと、「シーカヤッキング=生き方」だという結論に至り、シーカヤックを漕いで海に出る時のようにすべての小さな判断が自分の生死に関わっているという、「ちょっと大袈裟じゃないの?」というような事が自然になってくると思います。
そうなってしまえば家をどこに建てて住むのかということを考えるのも、シーカヤックでどこから漕ぎだすのかを考える時と同じような、もしくは今夜のキャンプ地にする海岸をどこにしようか?というような判断にも似て生きていること全てがアウトドアになっていくと思います。
だから、生き方の基本を知り始める時代である若い時には特にアウトドアを経験することは大切だと思います。
もちろん、その時代を通り越しているとしても遅くはないと思います。

写真:崖にスズメバチの大きな巣。巣の下には2009年にこの窪みでハヤブサが営巣した際のベット材の小枝が残っています。生き物の住処選びは大変慎重です。















写真:崖にスズメバチの大きな巣。巣の下には2009年にこの窪みでハヤブサが営巣した際のベット材の小枝が残っています。生き物の住処選びは大変慎重です。
2009年5月のカヤック日記(ハヤブサが営巣している時の様子が載っています)

生きていくときに自分に訪れるリスクやトラブルに自分で考えて対処する、「生きてる限りリスクは当然あるもの」(死んだら多分リスクはなくなります)という前提でそれにどう対処して生きていくのかを常に考える、それを楽しむことがアウトドアなのですから、生きていく上でのリスク回避や状況判断さえも楽しんで生きていくという強さがきっと少しは身につくと思います。
少なくともアウトドアでの活動は死ぬ可能性のある行為を楽しくやっているので、死は特別な時にやってくるものではなくて、いつもそこにあるもので、それとうまく付き合っていくという事がアウトドアの適度なスリルであり、それをクリアした時の達成感でもあるのですから。
と言いながらシーカヤックのガイドをしている私自身が弱く自分の人生を完璧に制御しきれていないのは第三者から見ても一目で分かることなのですから、あなたがツアーに参加した時にシーカヤックを漕いでいる時のガイドの判断がすべて完璧だろうと考えるのは問題です。
ガイドも所詮人間ですし、私はともあれ、どれだけの経験を持っているガイドでも知らないことが沢山あります。
すべて経験している人はいません。(すべてを経験しつつあったなら、そのガイドはもう死んでいると思います)
そう考えてみたらいろいろな世界の専門家の言うことを、そのまま受け取った結果で自分が死んだ時のことを想像できます。
例えば「家を建てるのはここが最高です!」と。(他にもいろいろありますね)

写真:ハマヒョウタンゴミムシダマシに吻を差し込んで吸汁しているヒメオオメカメムシ。ヒト以外では生きていればいつでも捕食されるリスクがあります。













写真:ハマヒョウタンゴミムシダマシに吻を差し込んで吸汁しているヒメオオメカメムシ。ヒト以外では生きていればいつでも捕食されるリスクがあります。

だから自然の中を案内するガイドはシーカヤックに限らず、十分な余裕を持たせて、本当ならもう少し攻めていけるかもしれないけれど、しかし営業的なガイドサービスでのリスク回避の限界という面を理解する感覚もガイドには必要で、その線を保っているはずです。
ということは本当はもっと自分(お客さんの方です)は行けるかもしれないのに、ガイドがその先を抑え抑えでやっているために本当の上達ができないのかもしれないと考えてもよいと思います。
私はそれは本当にあることだと思いますし、どこまでも上達したいという人にとっては損だと思います。
私自身もほとんど一人で漕いできたのはその為もあって、だれにも迷惑をかけずにできるところまで、自分が求めるスタイルでの必要限界を試すにはガイドやインストラクターといった人間に頼らずに、一人で自分を試すことが必要だと考えています。
ガイドが手伝える段階には限界があるはずです。(ほんの入り口でしょう)
むしろそれを言わないと、ツアーで漕いだだけでは「なんだシーカヤッキングはこんなもんか」と思われても仕方ありません。
自分でリスクを負って責任を果たして生きて帰って来ることがシーカヤッキングの充実感の中身だと言えます。
ここで話が戻りますが、それには自分を自分でどこまで護れるのかを把握し、常にその準備と判断と覚悟が必要です。
だから逆説的ではありますが、結果としてアウトドア活動で本当の自分の限界を知ることはできません。
限界の2歩か3歩手前でやめておかないと本当に死んでしまう行為なのですし、事故を起こせば救助の人たちや、シーカヤックがそういうことで注目されれば日本中のシーカヤッカーにも迷惑がかかってしまいます。(地上人から見ればシーカヤッカーはどれも同じ種族に属していると映ります)
そこまで考えてシーカヤックを漕ぐと、「シーカヤッキングって何なんだろう???」というところに今度は到達すると思います。

写真:珍しい白い花びらのハマゴウの上にはスナハマハエトリが。なかなか無い写真になりました。













写真:珍しい白い花びらのハマゴウの上にはスナハマハエトリが。なかなか無い写真になりました。

そしてそこから先はそれぞれだと思いますが、そういう思考の癖がやはり日常の生活にも影響を与えはじめ、結果的に誰かの考えを丸のみにするのでは個人差(体力、体質、性格など)をも含めた自分に合った判断はできないということに気づくと思います。
自分のことを一番知らないのは大抵自分ですが、自分だけが知っていることも沢山あるはずです。
それをどれだけ専門的な人だとしても、個人差(個体差)をも含めて完璧に判断できる専門家はいないのだと分かります。
結局自分の生死や生き方は自分一人で自分の責任で決めていくものだということがシーカヤックを漕いでいると分かります。
そして、カヤックを漕ぎ出すつもりで朝に海を観察していて「この海はなんだか怖いぞ」という説明できない感覚的なものが、死なないためにとても大切な判断を与えてくれるということにも抵抗することなくその直感を取り入れて判断するということが、日常でも当たり前になってくるといろいろなものに敏感になっていくと思います。

6日 千倉ジュウサンホシテントウ初見

初めて見ました!
オカヒジキにいましたが、河口付近のヨシ群落などで採取されることが多いとのこと。
河川改修でヨシ群落が減少している影響を受けているそうです。
テントウムシにしては真ん丸感がないのです。
当日のTwitter投稿(写真あり)

8日 白浜第2のハマナタマメ発見

6月25日に発見した白浜のハマナタマメの小さな株から5mほどのところにもうひとつ見つかりました。
すぐ近くなのに意外と気づかないもので…。
考えてみると鞘で育つのだから、鞘ごと漂着すると海岸で鞘から出てきたタネが育つ経緯を想像するとハマナタマメはひとつあれば、そばにもまだある可能性が高いのだと気づきました。
当日のTwitter投稿(写真あり)

10日 館山港 イルカ群れツイートあり

すぐ近くなのに見に行けませんでした…。
イルカに囲まれたかった。
先月の東京湾シャチ出現との関連は無いかな?という想像をしました。

写真:久しぶりに遭遇したオカヤドカリ。













写真:かわいらしい顔のオカヤドカリ。

13日 久しぶりにムラサキオカヤドカリ発見 前回、白浜で発見のサラサバイに入った小さな個体との遭遇は2015年8月のこと。
今回も東京海洋大学の濱崎活幸様に同定していただきました。
今回はイシダタミという2pほどの貝に入っていて立派でした。(写真)
濱崎様によると、さらに大きく成熟した「紫色の個体が見つかれば報告の価値あり」と教えていただきました。
ただし天然記念物指定なため採取は禁止されています。
皆さんも発見時には写真を撮って頂き、是非報告してみてください。(こちらに連絡頂ければお繋ぎします)
当日のTwitter投稿(写真あり)

14日 白浜第2のウミガメ巣確認

第1は6月23日。
ひと月に上陸1か所では気持ちの持続が難しいですが、だいぶん慣れました。
良い場所に産んでくれたので台風でも安心ですし、光害も最小限な位置ですので期待大な巣となりました。
当日のTwitter投稿(写真あり)

14日 浜田でアオウミガメ死骸漂着

16日 白浜と丸山でアカウミガメ死骸漂着

16日 和田シロバナハマゴウ開花確認

花の上にスナハマハエトリがいました!
貴重な白い花びらのハマゴウの上とはなかなか貴重な写真が撮れました。(写真↑)

19日 ツルナにスナハマハエトリ タカラダニと同居
当日のTwitter投稿(写真あり)

22日 3月に幼体を確認した白浜のクサグモ類を観察

3月に海岸で撮影した自分では種類の判らなかったクモの写真をSNS上でアップしたところクモ研究者の馬場友希様が「イナヅマクサグモの幼体のよう」と気づき、種を確認するために成体になるのを待っていました。
24日には5個体採取し馬場様に発送、興味深い結果判明。発表予定。
またまたクモ関係でおたのしみができました!
当日のTwitter投稿(写真あり)

写真:23日発見の館山市ウミガメ上陸痕跡。













写真:23日発見の館山市ウミガメ上陸痕跡。

23日 平砂浦 ウミガメ巣確認

館山市でやっと上陸が確認できました。
今年は少なすぎます…。
当日のTwitter投稿(写真あり)

24日 白浜でハマナタマメ発見

6月14日発見のグンバイヒルガオのすぐそばでした。 種子が漂着しやすい場所というのはあると思いますがピンポイントで驚きました。

29日 南房総市南岸でシロヘリハンミョウの生息地発見

前回は2014年7月でしたので、かなり久しぶりです。
ハラビロハンミョウはところどころいますが、ここは磯で意外でした。
潮が退いて湿り気のある岩の辺りが好みのようです。
イソハエトリとは争うことなく同居していました。
当日のTwitter投稿(写真あり)

写真:2014年以来のシロヘリハンミョウの生息地発見。地味ですが減りつつある種とされています。













写真:2014年以来のシロヘリハンミョウの生息地発見。地味ですが減りつつある種とされています。

30日 南房総市東岸にてミユビシギ1羽に足環(フラッグ)確認。

山階鳥類研究所のサイトにて南オーストラリア州で放鳥の個体と確認。
同研究所にメールし報告。
当日のTwitter投稿(写真あり)
フラッグの付いたシギ・チドリ類を見つけたら -あなたの観察報告で鳥たちの渡り経路が解明されます- (山階鳥類研究所ホームページ内)

ヤマトマダラバッタ完全復活の様子

忘れられないような高潮の被害を南房総にも与えていった2017年21号台風以来減少していた某所の同種生息地でしたが、カウントしたわけではないですが以前の状態に近い感覚の密度に戻ったと感じました。
もういなくなるのではと思ったほどなので大変嬉しいです。

写真:メダイチドリ、キョウジョシギとミユビシギの計150羽ほどの群れの中に1羽の足環をつけたミユビシギを確認しました。(奥の白い鳥の群れはウミネコ)













写真:メダイチドリ、キョウジョシギとミユビシギの計150羽ほどの群れの中に1羽の足環をつけたミユビシギを確認しました。(奥の白い鳥の群れはウミネコ)



お知らせ



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店頭希望小売価格=840円(税込み)
藤田連載の「カヤック乗りの海浜生物記」は55「海抜0mのクモ」編です。
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以下動画をYouTubeにアップ致しました。

ムラサキオカヤドカリ 2021年7月12日 南房総市南岸

ハマヒョウタンゴミムシダマシに吻を差し込んで捕食(吸汁)しているヒメオオメカメムシ 20217月16日 南房総市東岸



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