カヤック日記


2021年3月の出来事

写真:今月最も謎だった海面で採取した生き物。数ミリのナナホシテントウムシみたいな色合いですが、海の生き物ではないかと。













写真:今月最も謎だった海面で採取した生き物。数ミリのナナホシテントウムシみたいな色合いですが、海の生き物ではないかと。

今月は小さいものの写真ばかりになりました。
とにかく下ばかり見ていて、小さなものが動くと反射的に眼が向くという事を繰り返していました。
地上や海面にある小さいものばかり見ていたので、ミサゴやハヤブサが繁殖活動に入りつつある段階の観察は手抜きになってしまいました…。
両方を見るにはヒトは視界が狭すぎるようで、クモのようにいくつもの眼で視界を広くしたいものです。
ミサゴが鳴きながら真上を通過して気づいたり、すぐそばの木にとまっていたのに気づかずに飛び去ってしまったり、たまたま上空に目をやった時にハヤブサが通過した後姿だけ見かけたりでした。
そして気づけばミサゴは繁殖シーズンに入って、いつもの観察場所から姿を消していて、入れ替わるようにハヤブサがいつもの繁殖地にも姿を現しました。

写真:先月は海面でセイリングするクモが観察できましたが、今回は磯でバルーニングの為の準備動作をするクモを観察できました!写真の姿勢がクモの飛行準備動作だそうで、この後瞬間的に飛び去り消えてしまいます!













写真:先月は海面でセイリングするクモが観察できましたが、今回は磯でバルーニングの為の準備動作をするクモを観察できました!写真の姿勢がクモの飛行準備動作だそうで、この後瞬間的に飛び去り消えてしまいます!

海面でクモを発見したのが冬だった事と、その後に見つけた海面に昆虫やクモが多いエリアでの観察を始めたのも冬だった事が関係していますが、海面のムシは暖かさを求めて海面に来ているのではないか?という風に考えていました。
しかし、3月になって気温が上がるに連れて、特に後半に海面のムシの数が急に増えたことで、その可能性が低くなったようです。
ただ、冬季の寒い時期によく見られたのに、ここのところ減って来た種もありますし、種によって海面の利用目的が違うのだろうなという気もしてきています。
あとは季節的にムシの数が増えれば海面に落下する者の割合も高くなるはずですから、「落下組」と自分が言っている、海面を好むわけではなく単に落下したけれど落ちたからといってすぐに死ぬわけでなく海面を漂っていただけのムシを見分けられるようにするために、採取前の観察と採取後の容器内での行動の記録とをしっかりしておかないと意味がなくなるなと思いました。
特に甲虫は判断が難しく、ハネカクシの類、キクイムシの類、今月多くなったゾウムシの類、その他が見られますが、どれも大抵元気なのですが、海面で姿勢を整えられずにいるものが多く、多くは海面に自ら好んで来たとは思えません。
ただ小型のハネカクシの類は海面に明瞭に立ち上がっていたりもしていて、どれも一様ではないのですが、溺れていたとしても単に丈夫でなかなか死なないために、それが偶発的な分布を広げる能力になってはいるのだと言えそうです。
今回の一連の観察目的でいうと「落下組」と言えるので、あまり記録する意味がないかもしれないですが、生存している限りは何かの可能性は残されているので、「生存落下組」として一応記録しています。
たぶん今までに海面で採取され記録された昆虫やクモは網で集められたものだと思うので、「生きていた」か「死んでいた」の2通りしか情報がないと思いますが、カヤックで観察を含めて1個体ごとに採取していけば海面での状態も記録できているので、生存個体をさらに「溺れている」と「海面で問題なく過ごしている」のふたつに分けられるので、後者はウミアメンボ程度の海面順応性があると言えるのじゃないかと思っています。

写真:生きてはいるけれど動きの鈍かった海面採取のゾウムシの類。













写真:生きてはいるけれど動きの鈍かった海面採取のゾウムシの類。

明らかな「落下組」と言えるのはハチの類で、どのハチも海面に上手に降り立つ事ができていなくて、姿勢も保てずに半分溺れながら翅を羽搏かせて水面でもがいているという姿です。
唯一の例外はクロスズメバチで、脚の表面張力で立ち上がってはいましたが、翅が濡れて上手く飛び立てずにホバークラフトのように海面を無駄に動き回っていました。
近づいてみるとカヤックに乗ろうとしたのには焦りました。
その他のムシでカヤックに乗ろうとする様子を見せた者はいませんでしたので、心配せずにすぐ近くで観察していたのですが、よりによってスズメバチでしたので。
スズメバチは以前から沖合でカヤックを漕いでいる自分の頭のすぐ上を飛んでいく時がありましたし、沖合の海面で溺れているのも見ていますので、延々と海面が続く状況でも気にせず飛んで行く種類なのは知っていましたが、今回の沿岸での海面調査ではスズメバチ、オオスズメバチはまだ見つかっていません。
ただ今月18日には多数のミツバチが同海面で溺れていました。
岸近くに大きな桜の木が咲いているので、そこに蜜を吸いに来た帰りに誤って落ちたのだろうとは思いましたが、数回落ちる現場を見ることができて、その様子は海面に引き寄せられているようでした。
山の方から下りて来たような角度でゆっくりと飛んで来て私の視界に入ったミツバチは、ちょうど私がカヤックに乗った眼の高さより少し高いくらい(海面上1m)のところで速度を落として海面を一瞬調べるような間をおいてす〜っと海面に降りて行き、そのまま溺れてしまいました。
少し離れたところにいたのも含め数回、しっかりと近くで観察できたのが2回でしたがどれも似たような動きで海面に達していて、海面というものが理解できていないように感じました。
それでしかしなんでミツバチが海面に降りたいと思うのかというと、私はやはり海面の暖かさを感じ取って好ましい温度の場所があると思ったからなのではないかな?と思ったのでした。
ミツバチは今回多数いましたので複数回その行動を観察できましたが、その他のハチや昆虫では海面に達するところを観察する機会が少なかったので海面に何か要因があって引き寄せられているのか、単に落下したのかが分からなかったのですが、ミツバチはある程度のサイズもありますので動作の中に意志が感じられるのが良い事例になりました。
アブラムシが多数海上上空に舞っていた時にも繰り返しアブラムシが海面に達するところが観察できましたが、やはり小さすぎて動作に表現される意思があまり感じられませんでした。

写真:海面で溺れていた複数のミツバチ。全体で数十はいました。













写真:海面で溺れていた複数のミツバチ。全体で数十はいました。

暖かくなるに連れて、海面を素早く走るように低空で飛び回る昆虫が増えてきています。
それは似たようなものは冬にも見られたのですが、どうも飛び方やサイズが違っていて違う種なのではないかという感じがしています。
これらは、飛んでいる場面で捕獲して採取という流れは難しく、海面で静止していた状態で採取したものの中に同種が含まれているのかも正確には分かっていません。
特に今月最後の海面でのムシ観察を行った日には、そういう昆虫が海面を歩いているクモに急接近し、クモが慌てているという場面を少なくとも3回観察できました。
どれも写真が撮れていますが、咄嗟の事ですし、数ミリ単位の生き物が揺れる海面にいる状況ですので、ピントが甘かったりと今ひとつですが一枚をトリミングとシャープネス加工して載せておきます。
何かこれに関してご存知の方がいたら教えて頂ければ幸いです。 この翅のついた昆虫はクモを捕食しようとしていたわけではなく、何かと間違えて接近したという印象を受けました。
というのは、接近しクモだと分かると続けて接近することが無かったからです。
私の印象では同種のメスと勘違いしたオスなのではないかという感じがしましたが、そんな単純な話ではないかもしれません。
調べてみると一生を海で暮らすユスリカなどがいくらかいるそうなので、そういう昆虫の生活の一場面だったのかもしれません。
とにかく分からないことばかりですので、憶測や妄想だけが私の中で増えている状態です。
ある程度の記録ができたら、それらの専門の方に問い合わせてみたいと思っています。
まずはまともな写真を撮りたいと思います。

写真:海面で歩くクモ(右)に接触直後の不明昆虫。













写真:海面で歩くクモ(右)に接触直後の不明昆虫。

そういう海に暮らすカの仲間についてインターネット上で調べていたところ、先月初めに館山湾内の海岸で拾ったアオイガイの表面についていた不明だった微小生物と同じ外観のものが鮮明な写真で掲載されているサイト(※1)が見つかりました。
まさかカの親戚だとは思わず、今までに海面で見た昆虫で色合いの似ていたカスミカメムシやアブラムシで検索していたので見つからなかったようです。
そのサイトによるとオヨギユスリカの類だそうで、実物はかなり貴重だそうです。
しかし、残念なことにこの標本は保存していませんでした。
この小さな生き物の存在に気付いたのは、2月の終わりにまとめて写真を整理しているときだったのです。
現場では写真のように手に取って撮影しているのに生き物には見えなかったのです。
海藻の切れ端という印象で、撮影後払ってしまったと思います。
それほど気にならない小さなものでした。
せめてその日の夜にでも気づいていれば同じ現場で探しなおすことができたのですが…。
今後こういうサイズの存在にも十分注意する必要がありそうです。
以前から同じように微小な外洋性のウミアメンボに関しては注意していたつもりでしたが、その姿を知っているために逆にそれがウミアメンボではないと認識してその他の可能性を排除してしまっていたのだと反省しました。

写真:2/1館山湾岸で発見のアオイガイに付着していたオヨギユスリカと思われるもの。





























写真:2/1館山湾岸で発見のアオイガイに付着していたオヨギユスリカと思われるもの。

昆虫やクモといったサイズのものに注目してみると、そのサイズが掌に収まるという点で採取から解剖といった持ち帰り調査が楽にできるという点で今まで接していた鯨類等と極端に違っていて調査の仕方の差が面白いです。
クジラは今では捕獲も難しいですし、漂着を待って新種が記載されたりと気を長く持ってしかし希少な標本が得られた時には確実に情報を記録したいという感じがあります。
また行動を観察するにも飼育ができない場合がほとんどですし、出来たとしてもその状態で実験的に確認できることは限られているので、実際の自然の中での観察がやはり重要で、そのために人が調査対象に合わせて動き回る負担度合いがかなり違うような感じがします。
一方で昆虫などは特に小さいものは発見から生態観察まで難しいことも多々あるはずで、大き過ぎると大変だし、小さすぎても大変…というのは人間がこのサイズだから仕方ないのですが。
私が生き物を調べるうえで、できるだけ自然の生息場所でその生き物が自由に暮らす姿を観察するに留めたいという好みは幼少期に多数の虫などの小生物を飼っては十分に世話せず殺してしまっていた反省と後悔があります。
それに加え、多くの影響を受けた師匠秋山先生の影響があります。
先生の著書に書かれていた一文を引用します。「わずかな数の生物の採取も,回数を繰り返せば,また多くの人が行えば必然的に自然の破壊に結びついていくと考えるべきである。磯浜に多数の人が立ち入ること自体も,海藻類を踏みつけ,新芽をつぶし,系の衰退につながっていくこともあり得るので,細心の注意と配慮をもって観察と調査を行う必要がある。少なくともこのような心構えもって調査に当たってもらいたい。」(※2)これは磯浜調査の本に書かれていた事ですが、できるだけ殺さないという方針でとよく話されていました。
先生は生き物が本当にとても好きで、単純に1個体1個体に愛情を感じていたのだと思います。
対象生物だけに興味を持っているだけではこういう視点は得られないので私としては大変影響を受けました。
例えばウミガメの産卵を調べているのに周辺の海浜植生にはまるで興味がないのではダメだと教えてもらって私も知ったのでした。
本当に何も見えていなかったんだな〜と今よく思い返します。

写真:イソハエトリにはどんなクライマーも敵わない?




















写真:イソハエトリにはどんなクライマーも敵わない?

しかし微小な昆虫、クモに関しては種によりますが同定(正確に種類を判別すること)には顕微鏡を使った解剖や観察が必要だと分かり、採取を始めました。
そして先日、12月から3月までに海面で採取したクモをクモ研究者の馬場友希さんに送付したところです。
同定含め様々な情報が得られるのを期待しています。
情報を得ることで海面含め、海辺のクモの生態解明に役立てるようにして、最終的には採取したクモたちに恩返ししなければなりません。
今後自分で重複や希少な情報が含まれているかが現場で判断できるようになれば、撮影のみで済む場合は一時採取だけ行って現場で戻すようにすれば無駄に採取しないで済むようにはなっていくとも思いますので、そのためにも勉強していきたいと思います。
その点、クジラやウミガメ、貝殻などの死後漂着したものから情報を得るという方法は私の好みにとても合っていました。
最近昆虫を記録するためにカメラをマクロ撮影に向いたものに変えた事で格段に記録が取りやすくなったのですが、この延長で技術的にフィールドで一時的な捕獲で十分な観察記録ができて標本がなくても同定できて、しかも生息地で放してこれる時代が来たら良いなと思います。
他の生き物でもそうですが特に希少種ほど保護などという理由で捕獲される場合がありますが、生き物はやはり生息地との結びつきがあって初めてその種の存在に意味があると思うので、できればそこに暮らし続けていけるように人間が生息地の単位で保護し結果的にその種を保存するというのが、やはり最善だと思います。
クジラが死んで打ちあがると、体表に付いていたフジツボやクジラジラミは明らかに狼狽えていて、死が迫っていることを感じ取っています。
生息地は開発していながら、そこに暮らす希少種を保護しているのでは、クジラを殺していながらクジラジラミを保護しているようなもので、全体を見渡すとやはりちょっと不思議な行為だと思います。

写真:小さなものを探していたお蔭で初めて見つけることが出来た美しいカメガイの殻。













写真:小さなものを探していたお蔭で初めて見つけることが出来た美しいカメガイの殻。

あとは生物の保護に人の興味の偏りが大きく影響しているのを感じます。
やはり外観的な美しさや生態の面白さが際立った種に注目が集まっているのを感じます。
良く調べればとても興味深い生き物も外観でそのモチベーションが排除されてしまっている場合がかなりありそうです。
私自身経験したようにアオイガイに付着していた「ゴミ」のように小さな昆虫のように単純に小さすぎるとかもありますが。
それはその他の世界でもそうなので、人間の好みや興味というものがある程度同じ偏りを持っているという事を感じます。
ただそうすると種の生態を知って、その周辺の生態系を知って、大きく見れば地球そのものを観ているのだという方向で考えた場合には、その偏りを意識的にある程度排除しないと十分な記録が得られず理解が遠のいてしまうのを感じます。
例えば海岸にいるハエトリグモに興味を持ったら、それが捕食しているハエがどんな種で、どんな生態を持っているのかについても少しは考えてみたら、次にはハエの食べ物や産卵する場所となっている漂着物にも興味が無いとハエトリグモがどういう場所を好むのか分からないので、自然とそうなるのですが。
やはりハエは一般的に好まれる生き物ではなく嫌われ者で、それはもちろん菌を媒介するかもしれないとか蛆が沸いているシーンを連想するまでもなくほぼ本能的にヒトが避けたい生き物だからだと思います。
そのため、こういう生き物の情報がインターネット上でもとても少なく、イソハエトリグモが捕食した海辺のハエについての情報がとても少ないことが分かりました。
つまり私自身今更身近な海辺のハエを調べているのですが…。

写真:スナハマハエトリの後ろ姿。砂に擬態するための模様がとてもきれいです。













写真:スナハマハエトリの後ろ姿。砂に擬態するための模様がとてもきれいです。

海辺のハエは独特の形をしていて、漂着物を探している人なら必ず見たことがあると思いますが、特に海藻や生き物の死骸が打ちあがった時に多数見られます。
海辺以外ではこのハエを見たことがなかったので、どうして海辺の漂着物にだけ特化したのだろう?と不思議で過去にも調べたのですが、あまり情報が得られませんでした。
海辺の生態系の中でこのハエはかなり重要な位置を占めていると思うのですが。
しかしこれもまた動きが速いうえに小さいので詳細な写真が撮りにくく、本当に調べるとなったら採取が必要になりそうです。

以前、カヤックツアーの際に上陸して休息中に、近くにいたハエのことを少しお話ししたところ、「ハエに興味を持つなんて」と驚かれたことがありますが、私としてはそういうものにも興味を持てるお客さんが増えたら良いなと密かに思っています。
クモ、カ、ハエと嫌われ者を集めたような話ですが、好きか嫌いかとは別にそれについて興味を持てるかは生き物観察者として持っていた方が良い感覚だと思います。
本当は生き物観察者だけに限らず、だれしも「なんで自分はこの虫が嫌いなのかな?」と思ってみると、実はそれについてよく知らないという事が多いと思います。
「知らないから怖い」は海を知らないからカヤックに乗るのが怖いのと共通のもので、多くの恐怖の大元になっている場合が多いと思います。
よく見てみたら全然怖くないじゃん!というものも増えるかもしれず、そうすれば生きていくのは楽になりますし、一方でこういう訳で自分はこれが怖いんだと理解することで避け方を学んで冷静に対処できるようになれば、これでまた生きやすくなるはずです。
クジラやウミガメでもその本体は大好きでも寄生している奇妙な生き物にも興味を持てる人、持てない人がいるようです。
クジラやウミガメの体表で暮らしているフジツボやクジラジラミは考えようによってはクジラの一部でもあるのですから、一緒に楽しんでみたら面白いと思います。
もっと大きく言えば地球に張り付いて暮らすクジラもヒトも、クジラに暮らすクジラジラミのようなものなのですから。

写真:海面のムシを探しに通っているエリアの風景。













写真:海面のムシを探しに通っているエリアの風景。



記事関係リンク

(※1)V月紀・四六

(※2)「磯浜の生物観察ハンドブック」秋山章男 著 東洋館出版社



お知らせ

YouTubeに3件の動画をアップしました。是非ご覧ください。

「スナハマハエトリ 2021年3月17日 千葉県館山市」


「ヤマジハエトリ 2021年3月17日 千葉県南房総市」


「海面で過ごすクモの様子 2021年3月26日 千葉県南房総市」




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