カヤック日記


2016年10月の出来事



館山市内を背景に泳ぐ鯨類。




















写真:館山市内を背景に泳ぐ鯨類。

今月は子ガメの脱出も確認できませんでしたし、大きなニュースもなく静かでしたが25日に館山港内にイルカが数頭いるという情報が入りました。
あまり時間が取れなかったのですが、なんとか現場に出かけることができ、すぐにイルカも見つかりました。
少なくとも5頭が館山湾の奥にある土砂運搬船や、多数の漁船も出入りする港の中で彼らは悠々と泳いでいました。
その様子は慌てるでもなく、迷うでもなく、意識して港内を探索しているという余裕さえ感じられました。
短い間の観察でしたが館山の市内を背景にしたイルカの写真を撮ることができました。

種を確かめるとか生き物としての情報を得るには対象をできるだけ大きく写し出したいですが、今回のように珍しい状況の場合はイルカそのものよりもそのイルカがいた環境を背景に撮れれば時代的な背景や位置情報、その土地の雰囲気まで感じられるので、できるだけそういう形で撮りたいと思って撮りました。
そういう点でカヤックから陸地を背景にして撮るのは最適なのですが、この時は急なことでしたので海に突き出した桟橋などから急いでの撮影となりました。
次の日には時間が取れましたので、カヤックで現場を訪れましたが、いつものパターンで既にイルカは立ち去っていました。
野生動物の観察で「また明日」はほとんどありません。
それでもイルカが泳いでいた経路を辿りながら漕いでみることで彼らが見ていたものや、感じていたことを少し理解できたかもしれません。
特にカヤックではそれはかなり近い感覚になるはずです。

イルカたちが見た風景。




















写真:イルカたちが見た風景。

以前にも館山湾にはハナゴンドウが1頭で入ってきたことがあります。
その個体は館山港の中でも最も奥の入り組んだ場所にある築港に入り込んでいましたが、実は5日間ほど自由に出入りしていたことが分かっています。
この時のこのハナゴンドウの狙いはイカだったようで港内ではよくイカが釣れていました。
ハナゴンドウはイカが主食です。そして時期も同じくらいの11月でした。

1999年11月の館山ハナゴンドウについて。 ページ内「ハナゴンドウ」をご覧ください。

今回のイルカは種が確定できませんでしたが、ネット上などで他の方が撮影した頭部の写真を見たところハナゴンドウではなく、カズハゴンドウかユメゴンドウと思われます。
この2種もイカ類を好むという特徴があります。
そしてやはり今回も港内でイカが釣れているという情報がありました。
今回もイカ目当ての来訪だったのかもしれません。

ウミガメには大問題となっているサイクリングロード。




















写真:ウミガメには大問題となっているサイクリングロード。

今月は風が強い日が多く空も曇りがちで、秋というより冬のような景色の日も多かったですが、突然半袖日和になったりと忙しい空模様でした。
しかし汗をかくのも程々で、海はシケていても自転車での移動などはとても快適でした。
アクセスの悪い海岸線は自転車での調査になりますが、この季節になると特に海岸は静かで海鳥たちも落ち着いていて自然な状態を観察しやすくなります。
風が強い日にはミユビシギとシロチドリが一緒になって、安全な海岸の真ん中で休んでいます。

この鳥たちは生活形態も採餌方法も違いますが、荒天の日には休息時の安全のために休息所を共にしています。
群れの数が多い方が天敵を発見するにも早くなりますし、捕食されるにしても確率としては自分が捕食される可能性は低くなるということでしょう。
カモメ類も風の強い日に避難しているところでは数種が混じっている場合が多く、小さなユリカモメと身体が倍ほどもあるような印象のセグロカモメが一緒に群れている様子はなんだかとても平和です。
同じカモメの仲間だとかシギ・チドリなど近縁の仲間だということが彼らにはどういう感じなのか興味深くなります。
ヒトでいえば肌の色の違い程度の気分なのでしょうか。

一緒に風をしのぐミユビシギとシロチドリ。手前の白っぽい鳥がミユビシギ、右後ろの茶色の背中がシロチドリ。




















写真:一緒に風をしのぐミユビシギとシロチドリ。手前の白っぽい鳥がミユビシギ、右後ろの茶色の背中がシロチドリ。

言葉は通じるのでしょうか?カモメ類の中にサギの仲間が混じっていることはありますが、シギが混じっているところは見たことがありません。
砂浜でウミネコが群れて休んでいることはよくありますが、そこにも混じっていることはないので、休息する環境が別だからというだけではないようです。
身体のサイズということでいえばユリカモメとセグロカモメとの差は図鑑で見るとユリカモメ全長37-43p、セグロカモメ55-67pと最少と最大で比べるともう少しで倍という差がありますし、ミユビシギが20-21cmですからミユビシギとユリカモメのサイズ差なら一緒に群れていても良さそうな気もします。
やはり種としての近縁を感じているということなのでしょうか?

しかし言語をはじめとした、種特有の表現の違いということがあるのではないかな?と感じることがあります。
例えば僕らヒトとイヌやネコはこれほど一緒に暮らしながら一生かかってもお互いの完全なコミュニケーションはできません。
私はネコを飼い続けていますし、若いころにはいつもセキセイインコがいましたから、異種間の心の通じ合いは随分感じていますが、やはりヒト同士が異言語でも短い間にも感じられるような同種間での通じ合いに達するにはかなり時間的な経過が必要になると思います。
そういう感じで、ユリカモメとミユビシギも交流が少なすぎて安心して一緒に群れを作るほどの親近感を得られていないのでしょうか?
異言語を使っていても同種であるという事が親近感に繋がり、安心感に繋がるのであれば単純に考えれば違う種類とされているカモメ類でも仲良くしていることが理解しやすくなります。

先月に引き続きグンバイヒルガオの結実したものと、他に種子が熟して種が割れた状態のものも確認できました。




















写真:先月に引き続きグンバイヒルガオの結実したものと、他に種子が熟して種が割れた状態のものも確認できました。

しかし、もしも日本語を話すネコがいたらどうでしょうか??
日本語を話すネコと自分が理解できない言語を話す他国のヒトとは我々はどちらがより親近感を感じられるのでしょうか??
もしヒトがこれほど言葉に頼らずに暮らしていなければ、ヒトはもっと動物たちと上手くやってこれたのではないかと感じています。
ヒトは言葉が通じないということで、ある段階から先のコミュニケーションを諦めてしまうことが多いように思います。
しかし動物は種が違うものでも共通の表現があり、相手を理解することができているように見えます。

もちろんヒトのそれも、そこから発展したものなので動物の痛みや喜びを大雑把には感じ取ることができますし、長年連れ添っているペットであれば尚更です。
しかしヒトが言語を介して初めて意思の疎通が始まると考えているために、言語の通じない相手とは本当の関係を築けないと決めてスタートしているために、その能力を衰退させてきたのではないかなと感じます。
たまに英語でのコミュニケーションを取ると、少しでも言葉が通じるということが素晴らしことだと感じる一方で、言葉がなくても分かり合えることが沢山あるなという事も再確認します。
例えば先日は東京海洋大学で海外の学生たちと少しの間カヤックに乗りました。
海に出ても比較的声の通る海況でしたから海上でも多少のアドバイスや他愛ない話をすることができましたが、もしも声が届かないような波風の日には相手が同言語使用者であっても言葉はもともと使えないのでカヤックを一緒に漕ぐ時には言葉以外の感覚的なものが大きな役割を果たすようになります。
身振りや表情、緊急な時には何でもよいから大きな声を出すとか、例えば赤ちゃんは普通にやっている方法ですね。
これはなぜか大人になるにつれて弱くなる能力のようです。

東京海洋大学でのシットオンカヤックを使った実習の様子。予報がずれて素晴らしい秋晴れに恵まれました!























写真:東京海洋大学でのシットオンカヤックを使った実習の様子。予報がずれて素晴らしい秋晴れに恵まれました!

もちろん必要な時には言葉で正しい伝達をすることになりますが、相手の近くまで漕いで行って手短に済まさなければなりません。
シーカヤッキングや海の活動では言葉が届かなくても、相手の動きや動作、表情から感じなければならないものが元々多いわけです。
これはつまりは動物たちの異種間コミュニケーションに近づいているのじゃないか?と感じます。
シーカヤッカーになることで、相手を理解する努力や、表現力、効率の良い伝達について無意識に発達するのだとしたら面白いです。
つまり海上という特殊な環境で言葉を失うことで動物に似た感覚を得て、そしてそれは異種間のコミュニケーション能力の向上にも繋がるとしたら…。
そう考えるとシーカヤッキングは海という地球の気分とも言える天候や海況の動きを読む事に加え、生物の気持ちを理解する事にも近づいていく行為なのかもしれませんね。

海岸は足元の紅葉。熟したハマゴウの実と紅葉した葉。























写真:海岸は足元の紅葉。熟したハマゴウの実と紅葉した葉。

参考文献

海の哺乳類 FAO種同定ガイド NTT出版
日本の鳥550 水辺の鳥 文一総合出版
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