カヤック日記


2015年10月の出来事


個人的にフィールドに出る回数が減っていましたが、ツアーはいつも通りです。写真は秋晴れの大房岬。























写真:個人的にフィールドに出る回数が減っていましたが、ツアーはいつも通りです。写真は秋晴れの大房岬。

今月はフィールドに出る機会がかなり減ってしまいました。
珍しくインドアで、しかもパソコンと向かい合っている事が多くなっています。
なぜかというと来月(もう今月ですが…)の最後の週末(28日)に迫っているウミガメ会議での発表準備に時間がかかってしまっています。
昼間からパソコンに向かっているのは勿体ないのですが、慣れない発表ですし、15年も溜めてしまった記録の整理が思った以上に大変になってしまいました。
当日は千葉県枠の発表として南房総の状況を口頭で、その他に今までの記録の中で約10年ほど取り続けたウミガメの足跡についての考察をポスター発表することになっています。
足跡など母亀の行動に着目した経緯は会議でも発表する内容ですが、主体ではないので少しここで書いて紹介させて頂きます。

2000年にイルカを観察に出掛けた根本海岸で偶然にウミガメの足跡を見つけました。
卵も確認でき、産卵が行われている事を知ったことで、次年度より根本海岸を中心に産卵頻度の確認を始めてみようと考えました。
カヤックでの使用の為に既に小型GPS(現在では「小型」とは言い難いサイズですが)を持っていましたので、翌2001年の調査開始の時からGPSを用いて位置情報は記録することが出来ました。

イソギクがきれいな季節になりました。




















写真:イソギクがきれいな季節になりました。

調査を始めてみると、見つかった足跡が非常に複雑な経路を経ていることがあり、しかも長距離でとても不思議でした。
母亀が何かに困っているという事を実感し、産卵した事そのものよりも迷走する足跡に興味が沸いていきました。
産卵に上陸しに来たのに産まずに海に帰っていく母亀がいる事も分かりました。
何か問題があるのだと感じ、それを知る為に足跡の考察と記録方法を模索し始めました。
他で足跡を詳細に記録しているという情報は見つけられませんでしたし、実際の現場に合った方法を自分で考えてみた方が面白そうだと思っていました。
ウミガメの足跡が迷走していたように、私の記録法もかなり迷走していましたが2004年頃になってやっと落ち着いてきました。

まずはGPSを用いて、上陸位置からある程度の間隔で座標を記録していく事を考えましたが、なにしろGPSは誤差が大きく、全体像は掴めても細かな母亀の反応を理解することは難しい記録でした。
当時使っていたGPSは現在のような詳細な経路を記録することも、それをパソコンにそのまま移行することも出来ないような機能レベルでしたし、これは補助的な記録でしかないと感じました。
産卵巣の追跡確認についてもGPSは数メートルの誤差が出るために、同じ位置を示せず日によって若干場所が変わってしまうというレベルです、それは現在の民用GPSでも変わりない問題のため、私は上陸位置、帰海位置と産卵形跡の大まかな位置の記録としてだけにGPSを用いています。
直径30pほどのウミガメの巣穴(卵)はGPSでは到底再確認することはできませんから実際には柵か何かの目印を設置する必要があります。
しかし私の調査では初期に巣のいたずらが見つかって以来、保護柵を設けなくしましたので孵化率を記録していた頃は何も目印がない状態で再度その小さな一点を見つけなくてはならなくなりました。
その為に用いたのは漁師さんや海女さんが昔から普通に用いている「山立て」でした。
海岸は陸ですが、海のように平べったく目印がありませんし、目印も大時化の時には波や風で失われてしまうので、狭い定点を保つという点では海上とほとんど変わりがありません。
海上の一点にある漁場を見つけ出すために沿岸漁業者が普通に行っているのが山立てで、「その場所」から陸を見た時にそこへ向かう最低2方向の直線を見つけ出すことから始まります。
まず例えば現在位置から伸びた延長上で、海岸にある記憶しやすい岩とその奥に見える山頂が重なる線をひとつめとしたとします。 そこから出来るだけ角度をつけた方角で同じように、誰々さんの家とその奥に見える谷とを結んだ線というような感じでふたつの線を確保します。
その二つの線の交点はいつでも同じ場所になりますから、その記憶(記録)を頼りにまたそこを見つける事が出来るというわけです。

今月も大きなクラゲが時々見られました。迫力です!



















写真:今月も大きなクラゲが時々見られました。 迫力です!

これを私はカメラを使って、やや望遠のレンズで5方向くらいの直線を出しておく事で非常に高い精度で一点を得ることが出来るようになりました。
写真を用いる事で多くの交点を間違いなく残すことができ、GPSで大雑把な位置情報を補助的に添付すれば限りない数の場所を多くの人と共有することも可能になります。
そのうえ精度は数十センチ単位で、時にはピンポイントで巣を再確認することも出来ました。
問題があるとすれば陸側の背景に特徴の無い砂丘と植生しかないといった場面では安定し距離のある目印が得られない為に精度が大きく下がってしまいます。
そういう時には目立たない目印を砂丘上に立てておくなどして対処します。
衛星まで使ったハイテクであるGPSではできなかった仕事が、カメラと紙だけで可能ということです。
もちろんハイテクで便利になった事がたくさんありますが、まだまだローテクに敵わない面があるということが面白いです。

話が逸れてしまいましたが、このようにGPSでは記録しきれなかった母亀の足跡の細かい動きをどうしたら表現して記録できるのかを考えました。
移動経路を記録するという事は母亀が、その位置でどちらに向いていたかという事を記録することですから次に方位磁石を用いました。
私がその頃から使い続けているSUUNTOのVECTORという時計にはコンパスが付いていて精度も高く、調整さえしてあれば安心して使えるものでしたので、それを使い始めました。
海岸への進入角度から始め、そこからの距離を測り向きを変えたところで、また角度を記録、そこからまた距離、そしてまた角度…という方法です。
とても迷っている場合には足跡がぐるりと小さな円を描いてしまう事もあり、記録法に悩みましたが、一定の決まりを作っていき今は安定して記録できています。
ウミガメは私が見ている限りでは普通は緩やかな弧は描かずに「直線か転回」と動きが明瞭なのが幸いしました。
脚などの異常がある個体などでは徐々に向きが変わるなどという事もあり得ますが、多くはそう考えて良さそうです。

夕焼けのきれいな季節です。パソコンの合間に夕日を撮影しに幾度か脱出しました。




















写真:夕焼けのきれいな季節です。パソコンの合間に夕日を撮影しに幾度か脱出しました。

できればその記録をもとに、いつでも現場にその時の足跡を再現できるくらいにしたかったのですが、最終的にそれは諦めました。
紙面やパソコン上でそれらを再現してみようとすると微妙な誤差の積み重ねで、上陸位置から始めた足跡の経路は海に戻る頃にはおかしな向きに向いてしまっていて海に辿り着かないという事が起きてしまいます。
腕に付けたコンパスとメジャーでの記録でそこまでの精度は到底出ませんでした。
それ以上の事をしようとすると高価な機材やフィールドでの荷物、何より時間的に厳しい中で行っている調査全体への負担が大きくなると考え継続を重視して妥協しました。
しかしその中からでも母亀の行動を数字的に記録することが出来るという事が分かって来ました。
数字で表現したものは比較しやすく、評価もしやすくなりますから、その点でこれからもっと突き詰めていき方法を確立していければと考えています。

これが上手く行けば母亀が毎年やって来てはその海岸に点数を付けて帰っていくという事になります。
これを世界中の産卵地で行えば、それぞれの海岸にウミガメの通信簿が届けられる感じになるでしょう。
そして海岸環境の良し悪しやワースト産卵地の順位が一目瞭然になってしまうかもしれません。
その点数を元に競争が始まれば…。
人間の先入観や利益や便利さ、美観をすっかり無視して、自然物の代表としてウミガメが点数をつけに来ると考えたらなんだか楽しくなりますね。

あらまし書いてしまいましたが、具体的な事をポスターで発表したいと考えていますので、もしお時間ありましたら外房一宮の観光を兼ねて、是非ウミガメ会議に参加してみてください。
申し込みは終了していますが、ホテル内での開催ですし発表を見る事は出来るのではないでしょうか?
ちょっとその辺り分からないので直接、日本ウミガメ協議会までお問い合わせください。※

南房総もすっかり秋です。




















写真:南房総もすっかり秋です。

このような二次元的な記録と共に行ってきたのが、母亀の見たものを見れるようにするという作業でした。
母亀が向きを変える、という事は向きを変える要因があるはずです。
それは目の前の漂着物だったり、砂丘の斜面の角度、堤防など、私たちが見てもすぐに分かるものであれば悩まずに済みますが、向きを変えた位置に障害となる物が無かった場合には悩みのタネになります。
悩みでもありますが、それは発見の始まりでもあります。
どうやったらそれが分かるかと考えると、母亀の気持ちにならなければならないと感じました。 その要因は、音や夜間に現れた釣り人や動物、光だったかもしれません。
それを感じた感覚器は眼ではなく、耳や鼻だったかもしれません。
しかしまずは母亀が見たものを確認したいと思いました。
それは足跡を辿りながら進行方向を見渡してみれば良いのですが、ここで大きな間違いを見過ごしている事に気付きました。
私は身長が171pほどありますが、母亀は…。
これほど目線の高さが違っては見ている世界が全く変わってしまいます。

我々には見渡せる腰高の地形の盛り上がりもウミガメには視界を妨げる要因になりますし、大きな障害物でもあります。
そのカメの気持ちになるためにカメの眼の高さで足跡の進路の風景を足跡を辿りながら写真に残すという事をしてきました。
これは実は調査を始めた初期の私のカメラがまだフィルムだった時期にはコストがかかり過ぎるためにほとんど不可能な事でしたが、2004年になってやっと導入したコンパクトデジカメによって可能となりました。
それでも当初はデータの量に悩まされましたが、現在では大きなデータで大量に情報を残すことが可能な環境、時代になりました。
一方で上陸頻度が下がって来ていて情報量が下がっているという皮肉も起きていますが。
これは最近よく行われている、生きた野生動物の身体に直接カメラを設置するバイオロギングに近い考え方かもしれません。
ただし先ほど書いたような通りすがりの物体は写せませんし、上陸した夜間ではなく、日中に撮っているために差がありますので、そこは考えに入れておかなければなりません。

夕焼けに染まる波。




















写真:夕焼けに染まる波。

これらの写真は私個人が母亀迷歩の要因を知る参考にするためにパソコンのスライドショーで見るだけでしたが、今回のウミガメ会議を前に発表の主題である足跡経路記録に関わる情報として昨日までにyoutubeにてアップし公開しました。
初期の撮影は、機材の程度と撮影者の程度…それと個人的な考察の為の記録としてのものだった事もあり、かなり雑なものですが、後半になるとカメラも一眼レフになり、一時は広角レンズを試していたりと見ていて案外面白くなっています。
最近では南房総の海辺の風景を残す材料としても使えるかもしれないと思うようになりました。
まずはヒトが見るものとウミガメが見るものがこれほど違うという事に興味を持って頂けると嬉しいです。
私も迷歩の要因を決めつけることなく、様々な影響を模索し続けるつもりですが、動画を見て頂いた皆さんの中でもそれぞれにこうではないか?という考察を楽しんで頂けたらと思います。
その結果、今のヒトの暮らしがどのようなものかということを改めて見つめ直す機会になるかもしれません。
ちなみにシーカヤッカーは遊びながら自然に海棲生物の目線で人間活動を評価するということをほとんど無意識に行っている生物とも考えられます。

2004年から2015年までで、辿ることが可能だった足跡の、更に個人情報の映り込みの少ない画像だけをアップしてあります。
そのほとんどは単調な砂浜の景色の移り変わりですが、中にいくつか特徴的なものが見つかります。
非常に長いもの、くるくる向きを変えていて動画を見ていると眼が回りそうなもの、砂丘の深い植生の中を行くもの、人工的に改変された地形に惑わされるもの…。
下にサンプルとしてふたつ貼ってありますが、うち千倉のものは海水浴場近くで上陸し、砂浜から砂丘に入り、一旦は巣穴を掘る作業をしましたが、そこでは産卵せずに前進したすぐ後に砂丘を寸断するように伸びたサイクリングロードへ1メートルほども垂直に落下してしまいました。
更にその道をひたすら歩いて海へ帰った母亀の足跡を記録したものです。
このような事故に遭ったためにこの母亀は産卵をせずに海に帰っています。
まず、こういうひとつひとつの問題を知ることが始まりだと思います。
是非、母亀の気持ちを体験してみてください。

youtube「100806千倉」

youtube「100825平砂浦」



参照



※第26回日本ウミガメ会議inいちのみや千葉


youtubeチャンネル「6dorsals kayak services」

2004-2015年の「母亀が見たもの」他、海が向かう子ウミガメの動画などをアップしてあります。
再生リストから見て頂くと見やいと思います。是非ご覧ください。




お知らせ



「kayak〜海を旅する本」Vol.50
発売中
店頭希望小売価格=840円(税込み)
藤田連載の「カヤック乗りの海浜生物記」は32「小さな出会い」編です。
どうぞ宜しくお願い致します。

購入御希望の方は写真をクリックしてください。





過去の日記一覧へ