カヤック日記


2012年9月の出来事


まだ夏の香りのこる根本海岸 8日と9日にはウミガメ産卵地の根本海岸にて音楽イベントが行われました。
もともと車さえ入場させるキャンプ場として長年利用されている根本海岸ですから、イベントが行われること自体には問題はない(もしくは今更…)と思うのですが、今回はウミガメの巣そのものに直接問題が起きてしまいました。

昨年より始まったこのイベントですが、昨年はウミガメの巣の安全確保を南房総経由でお願いし、設置設備も巣を避ける等で問題はありませんでした。
今年はいつごろ市に連絡をしようかなと考えていたところへ商工観光課より連絡があり、早々に巣の場所の確認を市の担当者と共に行いました。
これなら安心とお任せ気分でいたのですが、念のためイベント設備設置を行っているであろう前日7日に現地へ行ってみました。
すると遠目に見ても分かるような盛り土が巣の辺りに見えました。いやな予感と共にGPSで位置を見ながら近づいてみるとやはりピッタリその場所でした。


夏の終わりに浜に芽吹く謎の瓜 現場にいたイベント関係者の方によると、この約80cmの高さの盛り土(砂)はイベントのステージになる場所だそうで、役所の人からはここを避けるようにとの指示は一切なかったそうです。
関係者が電話で市の担当の人を呼び出したのだけれど、どうやら初対面らしく、それらしい打ち合わせはなかったとのこと。

何のために暑い中、待ち合わせして海岸歩いてお話したんでしょうか…さすがに怒りたくもなりましたが、ここは抑えどころでした。
なにより現場でユンボ(重機、シャベルカー)を操っている、知り合いの地元土建業のMさんが一番困った顔してるのですから、申し訳なかったです。
Mさんは自分が埋めた本人と思ってしまったかも知れず、その後もしばらく子ガメの孵化について心配してくれていました。

2001年にこの根本海岸でウミガメ産卵調査を手探りで始めたその年に、海岸で作業をしていたMさんと出会いました。
たまたまその現場に母ガメの足跡が通っていたからで、ちょっと足跡の記録を取る間作業を待ってもらったりしたのでした。


海の上も秋な感じ それ以来のお付き合いでこの海岸で幾度も会い、毎年ウミガメの心配をしてもらい、最近ではストランディングの現場でも会う機会が増えています。
クジラはユンボを使わないと運べないし、埋められないからです。 Mさんはそういう時に大抵、市から依頼を受けてクジラを埋めています。
僕は埋められる前に何か記録しようとバタバタしています…。そんな間柄でした。
はじめからMさんに巣の場所を伝えておけば良かったのだとやっと気づき、来年からは早めに連絡をすると伝えました。
Mさん本当にありがとうございます。

結局ステージの位置は時間がないなどの理由で場所を移すことはなく、できるだけ巣の位置に人が乗らないということでイベントを終わらせることになりました。
この巣は7月11日に産卵されたものです。ですからこの日、もしくはイベント中に巣から子ガメが出てきてもまったく不思議ではなかったので、なんとも落ち着かない気分でした。




問題の根本海岸7月11日の巣、堀戻し後の状態 しかし結局は地中の巣の中で既に卵から孵り、地上へ出る準備の時期になっていたとしても、既に行われた作業の音、イベントで訪れる多数の人々の気配がある限り、子ガメは巣の中で身を潜めているだろうから、イベントが終わり次第、元の高さまで彫り戻そうと決めました。

そしてイベントが終わった次の日、10日の午前中、現場に行き、巣の位置を再確認しスコップで掘り始めました。
かなり暑かったので「きついなあ〜」と思いながらやっていましたが、すぐそばでイベントの片づけでユンボを操作していたMさんのところの従業員さんがユンボで大まかに堀戻しをやってくれました。
やはり上司が良い人だと雇われている人も素晴らしいのです。仕事の作業ではなかったので「親方にはナイショな!」って。
その後はスコップでそろりそろりと掘り返し、巣のある位置だけは砂浜の本来の高さ程度に戻すことができました。
ついでに海への最短距離を行けるように誘導的な地形を作り、苦労をかけた子ガメに少しだけオマケしておきました。


レンブラントなユウヤケ まぁダメで元々、見守るしかありません。 実際のところ卵が潰れたりしていないか、とても心配でしたが確認する気にはなれませんでした。
万が一潰れていたら…。想像するだけでいろいろな気持ちが沸いてきてしまいます。
しかし、こういう時は「やるべきことはやったのだから、あとは自然に任せる!」が一番良いように最近は思うようになりました。

11日朝早く、根本海岸へ作業に訪れたMさんから電話がありました!「子ガメの足跡みたいのが海岸にあるよ」とのこと!急いで行ってみると確かに足跡が巣の場所から四方に伸びている!脱出確認です!!

巣に作った誘導路から出た後は南房総市の海岸特有の子ガメの足跡同様、街灯へ向かって山の方へ行ってしまった様子。 その内の足跡のひとつを辿ると、あの小さな体で230m以上も遠回りしてから海へ。それでも無事海に辿り着いていました!



イルカもまだいます こういうふうに街灯の問題はいまだ残っているのですけど、少なくとも目の前にあった昨日までの問題はクリアできたことが確認できたのでした。 まだ数匹が出ただけの様子でしたが、それ以降数日間の間にも脱出が確認できました。

今回のこの出来事はもちろん無い方が良かったけれど、あったことでいろいろと分った印象深い出来事でした。
イベントも無事終了し、多くの人が根本海岸を見て触れて帰って行きました。
ここでウミガメが産卵していることを知ったら、もっと喜んでくれる人、もっと南房総を好きになってくれる人が多くなるはずです。
南房総市がもっとこの貴重な事実を大切にする方向に少しずつでも変わっていってくれることを期待しています。
きっと今回はその良いきっかけになったかもしれません。







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