カヤック日記


2012年7月の出来事


館山市沿岸を泳ぐミナミハンドウイルカ 今月も引き続きイルカたちの観察ができました。
昨年までの観察では岸から距離が離れている事が多かったですが、今年は写真のように時々岸のすぐそばを泳ぐ姿が見られるようになりました。 この写真の日は特に岸に近く、しかも長い時間ゆっくりと視界の中を泳ぎ続けてくれたお陰で2010年にこのイルカたちが見られて以来の貴重なチャンスに恵まれました。

かなり多くの明瞭な背ビレの写真が得られた事でこの群れの個体識別を確実にできるようになりました。 また交互に浮上するイルカの数を正確に数えるのは難しいですが、個体識別ができたことで頭数は7と確認できました。

ずっと4頭と言われていましたし、私もそのくらいだろうと思っていましたが、予想外に多く驚きました。 しかし2010年に遡って写真を確認するとその時はやはり4頭でじょじょに数が増えてきた事が確認できました。 また個体識別が完成しなければ2010年にいた個体が、今いる個体と同じなのかさえ確認する事が出来ません。


南房総ミナミハンドウイルカ識別表2012版 今回は長い間南房総沿岸に留まっている割に行動範囲が広く遭遇率が低い、カヤックになかなか寄ってこない、といった理由で観察は断続的で何ヶ月も見つからない事も普通だった為に苦労しました。
今回は水中写真が少なく、雌雄の判別や、マークとしての胴体の傷の記録がまだ情報が少ないので、これからカヤックに慣らして観察の可能性を高めて行きたいと思っています。
また過去の群れで確認できた御蔵島からの移住については現在御蔵島の研究者と確認作業を進めています。 これから先どのくらいの間南房総に留まってくれるか分かりませんが、彼らに迷惑をかけないようにしながら出来るだけ多くの情報を記録しておきたいと思っています。

またこのイルカについては地域でどう扱っていくか考える必要もありそうです。
漁師や釣り船をやっている人達にとっては、イルカは魚を驚かす者=収穫減を意味する動物とされる場合があります。 また見物人が増える事で沿岸、海上が騒がしくなるという事もあまり喜ばれません。

南房総市沿岸を泳ぐミナミハンドウイルカ 一方、宿泊施設など観光に関わる人にとっては貴重な資源ともなります。
イルカ達は単にここ南房総を気に入って居着いているだけなのですが、人の思惑で様々な事が起こる可能性があります。 イルカの為に一番いいのは放っておいてあげることですが、有名になってしまうとそれも難しくなります。

ここでこのイルカについて書くこと自体が問題の元になる可能性もありますが、今回の群れは比較的行動範囲が広く発見率が低い為に今のところは心配が少なく、棲息海域も南房総(館山市、南房総市)の広大な海岸線に渡り、岸からの距離も数メートル〜数キロ〜?までとかなり広く利用しているので、それほど心配はないでしょう。
ただし彼らにとってお気に入りと思われる場所も分かりつつありますので、そこはWEB上では公表せずにいれば大丈夫と思います。 もしそういう場所を知った人も、そこは本当に慎重に考えて情報を扱ってください。
情報の扱い次第で状況がすぐに変わる時があります。 いつまでもイルカにいてほしいと願うのであれば是非考えてください。

布良(めら)海岸 情報は少ないですが、それでも「南房総にイルカがいる」という事実が分かっていれば南房総に来てイルカを探してみることはできます。
まずは海を見なければイルカは見れませんから南房総に住んでいる人でイルカを見たい人は出来るだけ沖を見る機会を増やしてください。 また南房総に住んでいない人も南房総に来た時には出来るだけ沖を眺めてください。
タイミングが合えば、そこにイルカがいます。
背ビレが見える時もありますし、運が良ければジャンプも岸から見ることができます。

上の写真はサーファーが波待ちをしている沖をイルカが泳いでいる写真ですが、このサーファーたちはイルカに気付かずにいました。
サーファーでさえ案外海を見ていないことが分かります。 海水浴に行っても水平線をじっくり眺める人はなかなかいません。 今度海に行った時には是非水平線を眺めてみてください、きっと何か新たな発見があると思います。


根本海岸、南房総市白浜町 沖にイルカがいなかったとしても、跳ねる魚、うっすらと見える伊豆諸島の島々、面白い雲、海鳥の群れ、海の上を飛んでいるチョウ、海の向こうに見える富士山など様々なものが目に入ってきます。
地上で暮らしていると普通、足元と行き先に注意する為に目線は20m先くらいを見るでしょうか? 特に都市部や室内に長くいる人は目線を低くしがちのようです。 目を上げた向こうには人の目があったり、壁や道路があるだけだからでしょうか。
その習慣がついてしまうと海に来てもついつい自分から数メートルに目線を置いてしまい、せっかくの体験を見逃している可能性があります。
カヤックに乗っても最初は数メートル先を見る事が多く、カヤックやパドルを見ている人もいます。 ですが、カヤックは岸から見ているだけだった水平線に行く為の乗り物ですから、それでは勿体無いのです。 自らが岸から離れた事、周りが水だけになった事を実感するには、是非もっと遠くを見てみてください。
現代になって船に興味を持つ人が減った様に感じられますが、これはきっと水平線を見る人が減ったからなのではないかと考えています。

ケカモノハシ 昔はもっと水平線を見ていたと思います、眺める事で自然に当たり前に明日の天気を想像し、沖の魚たちの様子を観察していたでしょう。
まだ天気予報はなく、魚もお金で交換するものではなく、誰かか自分が獲ってきて初めて自分の腹に入るものだった頃の名残が体に残っている年配の、少なくとも海辺に暮らす人は海を見る習慣、というか動作を無意識なレベルでやっています。

水平線の向こうに興味を持たなくなると船に乗る欲求は生まれません。 それはほとんど本能に近いものだったはずですがそれが失われつつあります。
一方、その欲求を叶える為に太古に造りだされたカヌーやカヤックに興味を持つ人が増え続けているのは面白い事です。 これはもしかすると失われたように感じていた本能がカヤックを目にする事で呼び覚まされるのではないかと感じます。

都市部に暮らしている人にとってショップや雑誌で見かけるカヤックは海を思い出させ、水平線を目指す本能を呼び起こすことのできる貴重な存在なのかもしれません。




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7月末日発売
店頭希望小売価格=840円(税込み)
藤田連載の「カヤック乗りの海浜生物記」はR「虫たちの海」編です。
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