カヤック日記


2011年7月の出来事


根本海岸のアカウミガメ上陸痕 その後ウミガメの産卵は順調です。
天候不順ですが、あまり気にしていないようです。

また良いニュースもありました。
海岸道路の街灯の影響がウミガメの行動に強く出ていた南房総市白浜町の根本海岸ですが、写真のように光に惑わされた痕跡の無い真っ直ぐな足跡が確認できました。
ほぼ100%クルクルと迷い歩きの跡しかみられないこの海岸でこのような足跡を見た時は驚きました。

これは以前行なった街灯の球換え(低圧ナトリウム灯への交換)の効果ではと考えましたが、近所の住む人に聞いたところ節電のために街灯のほとんどが消灯されている為と分かりました。
球換えの効果でなかったのは残念ではありますが、結果としてウミガメへの人的影響が1つでも減ったのなら素晴らしいことです。 節電により必要ない光が減る事で多くの夜行性の生き物は助かっているのかもしれないですね。
しかし街灯球換えを行なう前に役所では防犯のため街灯消灯は不可とされていたのですが、こんなに簡単に実行できるのは少し不思議ですね…。 もっと早くやっていてくれたら助かった命がたくさんあったのですが。

この足跡の母亀はこのまま真っ直ぐに背後の植生で満たされた砂丘に登り、てっぺんに建ててあるテントのすぐ脇で産卵を行なっていました。 キャンプをしていた人は夜訪れた母亀に気付いたそうで、気付いた後もガヤガヤせずにテントに入ってそっとしておいてくれたそうで、お陰で無事産卵を済ませて帰ったようです。 心ある対応、ありがとうございました。

しかし、また新たな課題(心配事?)が増えてしまいました。
もしも母亀が砂丘を超えた場合、急勾配で海岸道路に至る砂丘斜面を転げ落ちる可能性があります。 実際に過去には千倉町の海岸で1mほどの高さの垂直の段から海岸自転車道に落ちた後に長い距離を歩いて何とか海に帰った痕跡を見ています。

ウミネコたち 白浜町の海岸でも砂丘背後の深い植生の中に迷い込んで海に戻るまでに非常に長い距離歩いた痕跡も確認しています。 根本海岸の砂丘は海岸道路までの勾配高さがありますから落ちた場合には外傷の心配もありえます。 心配事が絶えないですね。

シロチドリ、コチドリもほとんどは順調に孵化し巣立ったようです。 ただ根本海岸に1つある巣だけはなかなか孵化しません。
今年は人出が少ないとはいえ、やはり海水浴、キャンプ場が始まると親鳥が落ち着いて抱卵できる時間が少ないなどの影響があるかもしれません。 ただでさえここのところ日照が少なかったですから心配です。

東北のウミネコは震災で繁殖地を失ったものもいるそうですが、北から渡ってくる群れにはちゃんと若鳥もいて安心させてくれました。 ただ数が少なめのような気もします。 写真の黒っぽい個体が若鳥でこの春に生まれたものです。
行動を見ていると成鳥よりも警戒心が薄く、好奇心が強いのが分かります。 写真の個体もボヤ〜としながらもこちらに興味津々です。

台風で打ち揚がった海藻と根本海岸 彼らのように季節移動をする生物がたくさんいます。
福島県周辺の汚染の強い海岸線で採餌してしまった個体もいるでしょうし危険区域の海岸で繁殖した鳥もいるはずです。
今月の台風では海岸に膨大な量の海藻が打ちあがりました。 福島の海岸でも台風が去った後には海草が揚がったことでしょう。 放射能を取り込んだ海草を砂浜に暮らす小生物が餌とし、それをシギ・チドリなどが食べ、その後に渡って行きます。 渡った先で寿命を迎えたり捕食を受けた場合にはまた別の生き物に取り込まれます。
食物連鎖で濃縮、移動された放射能がどういう結果をもたらすかはとても心配です。 この連鎖の最後に我々人間が含まれていなければよいと考えるのは間違っていると思いますし、そうでなかったとしても人間の作った余計な放射能のために地球全体の野生生物の生存に影響を与えることは許されません。

南房総市でも半減期30.1年というセシウム137が検出されています。 同市白浜町の海岸近くの中学校校庭で検出されたので、ウミガメ産卵地の砂浜も同じように汚染されていると考えるのが妥当でしょう。

海女さんの出漁 その砂の中で育つウミガメの子に将来的な影響が出ないか追跡して調べる事は出来ません。
今年は卵の有無の確認を今年は行っていません。 出来るだけ土壌に触れるのを避ける為です。
また夏の調査ですからいつもは短パン、Tシャツ姿だったのですが今年は長袖、長ズボン姿で汚染度の高いとされる植生群を抜ける場合などはマスクもしています。 暑くてかなわないですが、将来への心配事を増やす事は少しでも減らすようにしています。
ですから砂浜で寝転がったり、ただでさえ生活廃水で汚れている上に今となっては放射能濃度も高いであろう海に流れ込む汚れた小川で子供を遊ばせている親子を見ると本当に心配になります。

ただカヤックに乗る時は前と同じように過ごしています。 放射能について言えば南房総の海上はむしろ安全なのではないかと考えています。 南房総の海水中からは放射能は検出されていませんし、流動する海水面にはホットスポットは無く、そういう意味ではチリの堆積する「地上よりは」安全と言えると思います。
あくまで私見ですが…。

夕日のスカシユリ それよりも海に出たなら津波の心配です。
昨夜(31日未明)も福島で震度5強を記録する地震が起きました。 この7月だけで10日に三陸沖M7.3、23日に宮城県沖M6.4、25日に福島県沖M6.2、そして31日に福島県沖M6.4と4回も顕著に大きな地震が発生しています。 頻繁に震度5を記録し続ける東北から津波がまたやってくる可能性はまだまだ高いと感じるようになっています。
写真は白浜の海女さん、海のプロですが今回ばかりは心配になります。

先日読んだ「津波てんでんこ〜近代日本の津波史」によれば地震後数分で津波が到来する場合があり、もしも房総周辺沖での大型地震の場合は海上から陸へ避難する時間も与えられません。 更に海上では地震の体感度は下がり対応が遅れる可能性も高くなります。
家で地震に遇った時でさえ靴も履かずに山へ走らなければ助からないケースもあるのですから今の状況でカヤックを漕ぐのは好ましい事とはいえないようです。

この状況で「もう心配ありません」という根拠の無いことを言って人を海に連れて行くのは間違っているように感じます。 それならいつ安心できるのか…今回のような大きな余震の続く地震を経験したことが無いですからとても難しい問題です。
8月分からの御予約を開始したばかりでありながら、ここのところ随分と悩んでいました。 しかし昨夜の地震を受け「悩んでいる時には止める」という考えの元にとりあえず再度ご予約中止をさせて頂く事としました。
既にご予約頂いた方に関しては状況を見ながら予定通り催行させて頂く予定です。 ご予約済みの方でも、もしも心配を感じられるようでしたら遠慮なくいつでもキャンセルお申し出下さい。

なんだかこんなままで年を越すようにならなければ良いのですが…。
地震の神様の怒りが収まるのを待つしかないです。



参考文献

「津波てんでんこ〜近代日本の津波史」山下文男 著 新日本出版社
「気象庁ホームページ」http://www.jma.go.jp/jma/
「白浜中で微量の放射性物質検出 南房総」房日新聞2011年7月3日版
「食卓にあがった放射能」高木仁三郎、渡辺美紀子 著 七つ森書館




お知らせ



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藤田連載の「カヤック乗りの海浜生物記」はN「生き物たちの『その後』」編です。
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